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ITエンジニアとイラストレーターの収入の差について痛感

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プログラマーの友人と久々に会い、秋葉原の中華料理屋で餃子をつつきながら話してると、人件費の話になった。
「最近は月100万を提示してもエンジニアが集まらない」というニュース記事の話題は本当かどうか、と僕が質問したのだ。

 


IT分野の派遣「月収100万円」でも集まらず :日本経済新聞

彼によると、「モバイルアプリやソーシャルゲームなど旬のジャンルなら本当にそうらしい」と言う。
全体的にも、国内エンジニアの人材不足は深刻だそうだ。
旬のジャンルでなくても、「へっぽこプログラマーでキャリア数年」レベルでさえ、派遣会社を通しての収入は月40万は下らないのが相場だそうだ。それはもうずっと昔からだ。実際に10年ほど前のある人の例を、僕たちは共通して知っていた。

(Photo by Thomas Galvez)

業界の「カネ廻り」の違い

月100万は大げさとしても、少し修行を積めば、月40万は堅いエンジニアの世界。
かつてひろゆきも言っていたけど、「プログラマーになれば食いっぱぐれない」というのは本当なのだろう。
(企業に就職しているサラリーマンの場合は、もっと低い例はあると思う。各種保障のある固定給とフリーランスや派遣はちょっと違う。)

それに比べて、我らがエンタメ業界のイラストレーター達はどうだろうか。
十数年も絵の修行をして、美大を卒業したりコミケで揉まれて、漫画や同人誌やイラストで一定の評価を得たとしても、「月20万も入れば満足」みたいな雰囲気がある。
皆それぞれ、クリエイター志望者連中の「何千分の一」ってレベルの競争を勝ち抜いている魅力的で腕のいい人たちで、「月20万」に感謝する状況なのだ。

そりゃすごく稼げている人も中にはいると思うけど、ならして考えるとプロで月30万も継続的に入れば裕福な方だろうし、収入が安定しないフリーランスが多い世界だ。

「いや同人誌があるじゃないか」という声が聞こえてきそうだけど、同人誌で黒字が出るのは40%以下というデータもあるし、同人誌が売れないプロってたくさんいる。あれはあれで難しい世界で、仮に売れても年二回のボーナス程度だったりする。僅かな成功例を一般的な水準と見なす事はできない。

コンシューマーゲーム業界の低調を受けてか、イラストレーターを固定給で雇う会社はとても減ったように思う。アニメ業界については今さら語る必要もないだろう。美少女ゲーム業界も下降トレンドが止まったという話は聞かないし。むしろ聞こえてくるのはリストラ・活動停止の噂ばかり。

僕は別に、原稿料を上げない業界人が悪い、などと言うつもりはない。
結局のところ「カネ廻りの悪い業界は、お金に余裕がない」という事なんだと思う。

人材の需要と供給

お絵描きSNSや安価なお絵描きソフトが普及した結果、「趣味がイラスト」という若者は爆発的に増えた。
初歩の経済学が教えるように、イラストの仕事をしたいという志望者(供給)が多くなり、発注される仕事(需要)の数が増えていないなら、価格は最低賃金レベルにまで落ちていく。業界のカネ廻りだけでなく、エンジニアと違って人材の供給が過多という説明は可能だと思う。
掲載されるまで原稿の「持ち込み」を続ける漫画家志望者などは、「無償労働」と言えなくもない。

先述のへっぽこでも40万もらえるプログラマーからしてみれば、「可哀想」という感想が飛び出してくるだろう事は、想像に難くない。

コンテンツ業界でほぼ唯一カネ廻りがいいジャンルといえば、ソーシャルゲーム(スマホアプリ、ブラウザゲーム)だろう。基本無料でアイテム課金やガチャを回す例のやつ。
もし「リリースすればするほど儲かる、カネ積んでどんどん出せ!」という状態だと、原稿料を数万ケチっても仕方が無い。そう考える運用会社は、大きな出資や融資を受けて比較的高額で発注してくる事例も現実にある。
実際は仲介とか挟んだりするし、ギャラはピンキリではあるのだが、ピンがあるだけ良いと言える。

機能と娯楽の違い

ITエンジニアの業界とコンテンツクリエイターの業界の違いをもう一つ挙げるとすれば、「機能」を売るか「娯楽」を売るかという違いだろう。
Amazonのような通販サイトでプログラムがエラーを起こすと大変だ。だから企業は「機能を作る人」にしっかりとお金を払う。安心感を得るためにはエンジニアに大枚をはたいてもいいと思うだろう。
一方でコンテンツは、ふわふわとした「娯楽」の世界だ。
世の中には無料で楽しめる娯楽は山ほどある。テレビやyoutube、ニコ動はタダだし、レンタルDVDだって旧作100円とかだ。
なきゃないで誰も困ったりはしない。お金を払う「必要」があまりない世界なのだ。

消費者として月540円の有料メルマガやニコ生チャンネルは「高い」と思う一方で、ビジネスマンとして通販サイトなどの「商売道具の機能」を果たすプログラマーには大枚をはたく。それはビジネスをする上で、どうしても必要な機能を果たすからだ。

コンテンツ業界の中のポジショニング

こういう比較を考えている時、僕は収入は個人の才覚よりもいる業界、つまり「ポジショニング」の影響が大きいのだと思う。

収入差が現れる理由は、社長が搾取しているわけでも編集者が意地悪なせいでもなく、ポジショニングの違いのせいだ。おカネが回っている「流れ」の近くにいるかどうかなのだ。

じゃあ僕らがなんでカネ廻りの悪いコンテンツ業界なんかにいるかというと、そりゃコンテンツ作りが好きだからだ。

僕らが最も集中力を発揮して、パフォーマンスを残せるのは、コンテンツを作っている時だ。
もし社員たちにこう聞いてみたとする。
「月40万もらえるエンジニアと、月20万しかもらえないイラストレーターと、どっちがいい?」
即座にエンジニアに転職しよう、という人はあまりいない感じがする。
皆、そういう計算で仕事を選んでいるわけではないのだ。
実際に、Twitterアカウントのフォロワー数やお絵描き系SNSでの反応を見ていても、イラストレーターが得られる評価は高いと感じる。
獲得できる評価や仕事へのモチベーションが、カネ廻りと比例していない世界。
そういう損得勘定だけでは動かない世界で、僕らは生きている。
すでに人はカネのみのために働かないのだ。好きなことを仕事にできるなら、最低限の収入でもいい、というのが、それがビジネスマンとしてはいくら幼稚で不格好でも、偽らざる本音なのだ。

もし本当に生活を維持できる程度の報酬も得られない業界になってしまったら、働く業界を変えなければいけないという覚悟は必要なのだと思う。
でもできるだけこの仕事を続けていきたいというのは、全員に共通する願いだろう。

だからせめて、僕はコンテンツ業界の中でのポジショニングには気をつけていきたいと思う。それはできるだけカネ廻りのいい流れの近くで仕事をすることだ。進んで苦労してくれてる腕利きたちに辛い思いをさせないためにも。